薔薇の檻

アムリッツア星域会戦を圧勝したローエングラム陣営は皇帝フリードリヒ4世の死去の報を聞き、
門閥貴族との戦いを想定して早々に首都星オーディンへと帰還を果たした。

先行してオーディンへ戻ったオーベルシュタインと合流し、
ラインハルトは今後の計画を練り上げる事となる。

その間、ラインハルトはキルヒアイスに軍の統制を一任しロイエンタールとミッターマイヤー等と共に
あらゆる事態でも柔軟に対応出来るよう軍の再編成を行うことに終始した。

最終的な打ち合わせをかねてラインハルトはオーベルシュタインを伴わせ
キルヒアイスと合流し、計画の総まとめに入る。

そこでオーベルシュタインが持ち出した同盟軍の分裂案を聞き、
キルヒアイスはオーベルシュタインの有能さをまた改めて感じる事になった。

「むやみに騒乱を起こさせるというやり方は好みではないが…
現状ではこちらにも兵力を割く余裕はない…最善の策だろう」
少し考え込むようになったキルヒアイスにラインハルトがそう言うと、キルヒアイスは言葉を返した。

「…確かに、同盟軍を視野に入れないですむのなら、軍編成にもかなり余力が残りますね」
ラインハルトの提案にあわせて軍の編成に一部修正を加えるという形で打ち合わせは終わる。

そしてそのままキルヒアイスはラインハルトに別れの挨拶をして軍の打ち合わせへと向かった。

「キルヒアイス提督はどうやらこの作戦をお気に召さないようですな…」
ラインハルトにそんな言葉を漏らすオーベルシュタインである。

どうやらオーベルシュタインにはラインハルトがキルヒアイスを
作戦会議に参加させた事に異論があるようだ。

「…そんな事はない。卿はなぜいちいちキルヒアイスの事となるとそんなに突っかかるのだ。
…少々大人気がないのではないか?」

「心外ですな…理由はいつも申し上げている筈です」
オーベルシュタインは表情を変えずにそう言うと会議机にちらばった書類をまとめ始める。

「…私は別に卿に不満がある訳ではないし、能力を疑っている訳ではない…
私はキルヒアイスの能力を誰よりも高く評価し、そして信じている…ただそれだけだ」

今回の打ち合わせでキルヒアイスに計画の改善案をいくつか指摘され、
より計画が完璧なものになったのは確かである。

だがオーベルシュタインが問題にしているのはまさにそこなのだ。
キルヒアイスはラインハルトに劣らずどの分野に対しても有能すぎる。

ラインハルトがキルヒアイスに全面的に任せている分野に関しては
ラインハルトの能力を上回る部分も多々見受けられる程だ。

優秀な人材を集めたローエングラム陣営の首脳部に於いてもそれは群を抜いている。
だからこそオーベルシュタインはキルヒアイスを認める訳にはいかない。

「…ほどほどにしておけよ、オーベルシュタイン。アイツが笑って受け流している内はまだいい…
だが、アイツを本気で怒らせたら…正直オレにも止められないぞ」

キルヒアイスを本気で怒らせるなど自分やアンネローゼの事以外は
およそ不可能な事ではあるのだけれど…

内心でラインハルトはそんな事を考えながらオーベルシュタインにとどめの言葉をかける。

「キルヒアイスはオマエの上官だ…その事を忘れるな」
ラインハルトの言葉にオーベルシュタインは一礼で答え会議室を後にした。

後にオーベルシュタインはこの時の会話を思い返す事になる。

まもなくして門閥貴族の間でブラウンシュヴァイク公を盟主とした「リップシュタット連合」が結成され、
皇帝派のラインハルトとリヒテンラーデ侯に対して全面戦争の体制を整えられた。

こうして帝国は皇帝派と門閥貴族とに別れ、内戦を始める事になる。

「おはようございます…キルヒアイス提督」
ラインハルトの執務室に来たキルヒアイスにそう挨拶を返してきたのは、
マリーンドルフ伯爵令嬢であるヒルデガルド・フォン・マリーンドルフである。

先日ラインハルトがヒルダと話した会話の内容をキルヒアイスに話したところ、
キルヒアイスが強い関心を示しローエングラム陣営の秘書官に推薦したのだ。

ヒルダの方も父親がカストロプ動乱で人質になった所をキルヒアイスに救われていた為、
いい恩返しになると二つ返事で引き受けた。

「どうですか…仕事の方は。男所帯ですから、何かと大変でしょう」
「ええ…ですが、やりがいもありますわ。私は皆様のお役にたっておりますでしょうか」

帝国はまだまだ男性社会である。
この人事は帝国でも先進的な人事といえよう。

「勿論ですとも…私の方も忙しくて、中々閣下のお傍にいて差し上げられないので
本当に助かっていますよ。事務処理能力も気が利いていて仕事が捗ると
元帥閣下も本当に感心しておられました」

「恐れ入ります…」
ヒルダがキルヒアイスに礼をいうと、キルヒアイスは笑顔でそれに答える。
実際ラインハルトの要求にあわせて仕事をするのは至難の業なのだ。

キルヒアイスの手際の良さに慣れたラインハルトは指示を最小限にしか出さないため、
仕事をすぐにこなせない人間だとラインハルトをすぐ苛立たせてしまう。

「来たか…キルヒアイス!」
「はい、閣下…いよいよ、ですね」
オーベルシュタインを伴わせラインハルトが執務室にやってくると、
門閥貴族たちの間でラインハルトを暗殺する動きがある事が分かったのだ。

これを機にラインハルトは軍を動かし、一気に政権奪取を目論んでいた。

「これからは貴族連合との全面対決になります…おそらく市街戦になるでしょう。
その前にフロイライン・マリーンドルフを一度、陣営から退かせてはいかがか」

ここにいれば間違いなく同じ門閥貴族からは敵として扱われてしまう。

オーベルシュタインの言葉にラインハルトはヒルダに返事を求めるように顔を向けた。
ラインハルトはヒルダの意志を尊重する事にしたのである。

「お気遣い有難うございます…ですが、すでに父に言って屋敷のものは避難させておりますし、
私も覚悟は出来ております。ご心配には及びませんわ」

事前にこの状況を読んでいたヒルダは、この日の為にすでに準備を整えていたのである。
この慧眼振りにはキルヒアイスも感心せずにはいられない。

「…流石にこのお二人のご推薦を受けて首席秘書官に抜擢されるだけあって優秀であられる…
うかうかしていては私の仕事を奪われかねませんな」

オーベルシュタインがそう言うと、キルヒアイスがその言葉を受けるようにしてそれに答えた。

「…貴方の素直な褒め言葉、私初めて聞きましたよ」
「まあ、最初はてっきり私のお目付け役にでもするつもりかと思っておりましたので…」

独身のラインハルトに女性の秘書官をつけると聞いた時には反対したオーベルシュタインだが
優秀な人材に男女の差別などはしない。

「ククク…それもいいかもしれませんね。考えても見ませんでした」
「本気にしないで頂きたい…キルヒアイス提督」

ヒルダは二人の会話はまるで狸の化かし合いのようだと感じていた。
こんな言い合いをするオーベルシュタインを初めて目にするヒルダである。

「閣下、このお二人…仲が宜しいんですの?」
「…あれが、仲良くしているように見えるとは貴方も大概大物だな」

ラインハルトとヒルダが小声でそんな会話を交わしていた事を二人は知らない。

結局ヒルダは今の状況が落ち着くまではアンネローゼと共に屋敷で暮らす事になる。
アンネローゼも良い話し相手が出来た、と喜んでヒルダを迎え入れたのだった。

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ついに門閥貴族はラインハルト暗殺の為に兵を繰り出し、市街戦が始まった。
それと同時にかねてより予定していた通りキルヒアイスは軍を動かす。

作戦は功を奏し各省はローエングラム陣営に全て掌握されリヒテンラーデ侯の拘禁に成功した。

リップシュタット連合軍を名乗る門閥貴族たちも3分の1までは拘禁に成功するが、
盟主であるブラウンシュバイク公とその副盟主のリッテンハイム侯を取り逃してしまう。

「…万事、計画通り首尾よく言ったようだな」
「は…すでにキルヒアイス提督が大本営を軍務省へ移動させました」
ラインハルトは早速軍務省へ向かうべく準備を整えるとアンネローゼに声をかけて屋敷を後にする。

「では姉上…いってまいります。ここはキルヒアイス直属の軍が
守っておりますのでご安心ください…フロイライン、貴女にも一緒に来て頂きたい」
「…かしこまりました」
「ラインハルト、それにヒルダさんも…気を付けてお行きなさい」
アンネローゼに気遣われながら、ラインハルトはヒルダを連れて軍務省へと急いだ。

軍務省でキルヒアイスに出迎えられたラインハルトは、
引き続き門閥貴族への対処に追われる事になる。

「ガイエスブルグ要塞、か…」
門閥貴族の逃亡先がガイエスブルグ要塞である事がここに来て確認出来た。

イゼルローン要塞よりは二回り程小さい人口天体だが
主砲の威力はイゼルローン要塞の主砲トールハンマーにも劣らない。

リップシュタット連合軍の盟主、副盟主がそこにいるとなると、
ラインハルト自ら出撃してこれを撃滅しなくてはならない。

まさにイゼルローン攻略戦の前哨戦である。

そこでラインハルトは地方の混乱を収めるために、
キルヒアイスに辺境星域の制圧を一任する事になった。

ここで二人は別行動をとって貴族連合と立ち向かう事になるのだが、
この時別行動を取った事により引き起こされてしまうヴェスターラントの虐殺を予見しようもなかった。

その後、ブラウンシュバイク公の親戚が領主をつとめていたヴェスターラントで地方叛乱が発生し
民衆の手によってその領主が殺されてしまうという事件が起こった。

そこで怒りを露わにしたブラウンシュバイク公がヴェスターラントへ向けて熱核攻撃を敢行する。
そうして惑星に生きる民衆200万の命が一瞬にして奪われてしまったのだ。

キルヒアイスの元にヴェスターラントに纏わる不穏な噂が入ってきたのは、
キルヒアイスが副盟主であるリッテンハイム侯の軍を打ち破った後の事である。

ラインハルトがヴェスターラントの虐殺を黙認したというのである。

キルヒアイスは報告を聞いた後、オーベルシュタインの補佐をさせている
フェルナー准将から話の詳細を聞き出してその事実確認をとった。

(オーベルシュタイン…っ!)
キルヒアイスはわなわなと身体を震わせこれまでにない程の怒りを露わにする。

門閥貴族を滅ぼす大義名分の為に200万の民を犠牲にしただけでなく
その罪をラインハルトに被らせたのだ。

(私が奴を野放しにしておいたからだ…ラインハルト様をこれだけ辱めるとはっ)

早くあの人の元へ行かなくてはならない。あの人が私を待っている。
オーベルシュタインを御しえなかった自分を責め続けているに違いない。

キルヒアイスは辺境星域の制圧を早々に終えるとその場を部下に任せ、
休む間もなくラインハルトの待つガイエスブルグ要塞を目指した。

ラインハルトの旗艦ブリュンヒルトに到着すると、
キルヒアイスは供を付き添わせないままラインハルトのいる部屋へと向かった。

キルヒアイスだけが専用のカードキーを使って
自由にラインハルトの部屋に出入りする事が出来る。

キルヒアイスが部屋へ入ると部屋の明かりは真っ暗で
洗面所からはかすかに明かりが漏れている。

洗面所へキルヒアイスが近づくとラインハルトが手を真っ赤にさせる程に、
力を入れてゴシゴシと手を洗い続けていた。

「ラインハルト様…っ!!」
「なぜ、血が…とれない。洗っても、洗っても…手に、血がっ!」
常軌を逸した目をしながら手を洗い続けるラインハルトの姿に
キルヒアイスは背後から抱きしめてそれを制した。

「キルヒ、アイス…?なぜ、ここに?」
正気に戻ったラインハルトがキルヒアイスの姿を見つけ、
何故ここにいるのかと困惑の表情を浮かべているとキルヒアイスが耳元で囁く。

「…私を呼んだでしょう?」
「……っ!」
キルヒアイスがそういってラインハルトの身体を宥めるように抱きしめると、
ラインハルトは涙を浮かべ表情を歪ませる。

キルヒアイスが何もかも分かって自分の元にやってきてくれたのだと安堵すると
ラインハルトは全身の力を抜いてキルヒアイスに身を委ねた。

「キルヒアイス…、…キルヒ、アイ…スっ」
身体の向きを変え向かい合うように抱き合いながらラインハルトは
キルヒアイスの名前を何度も呼んではキルヒアイスに縋りつく。

「オレが…オマエの忠告を聞かなかったから…オレが、オレが殺したんだ…っ!」

キルヒアイスが何度も自分に忠告していた。
オーベルシュタインは危険な男だと…それなのに…

ラインハルトの中で失われた200万の命が悲鳴を上げている。
キルヒアイスの思った通りラインハルトは自分を責め続けていたのだ。

「もう、大丈夫です…私が貴方の望みを叶えて差し上げます。
もう苦しくなくなりますよ…さあ、願いを言って?」

罰が欲しいのか、許しが欲しいのか。

「あ…」
「貴方が万民の神である必要はない…他人の犯した罪まで背負う必要もない。
貴方の中には私だけでいい、私だけの貴方でいればいい…そうでしょう?」

キルヒアイスの甘い囁きにラインハルトはついに堕ちた。

「…オレに罰を…めちゃくちゃにして、オレを罰して…くれ!」
ラインハルトの言葉にキルヒアイスはラインハルトを抱き上げると、乱暴にベッドへ放りなげる。

ラインハルトのシャツのボタンが弾け飛びラインハルトの裸体が晒されると
キルヒアイスが軍服の上着を脱いでラインハルトの身体に覆い被さる形になった。

「貴方にこれから罰を与えます…貴方の中にある罪は全て私が壊します。
なにもかも壊して…欠片も残さない」

そう言ってキルヒアイスがラインハルトの首に手をかける。

「ぐ…ううっ!」
「さあ…足を開いて、このまま串刺しにしてあげるから」

首を絞められて呻くラインハルトが涙を浮かべながら、
両足をM字型に開くとラインハルトの奥の窄まった場所にキルヒアイスの凶器があてがわれた。

「あ!…んんっ」
まだ慣らしてもいない筈の場所が、すでに勃起したラインハルトのものから
漏れ始めている粘液で濡れていた。

「ひ…ひいあっ!」
「もう濡れてる…そんなに欲しいんですか?」
キルヒアイスの硬いものがラインハルトの奥をこじ開けるように強引に押し付けられると、
楕円を描くように撫でつけられていく内にラインハルトの濡れた入口がヒクヒクと口を開き始める。

「うあ…っあ、あああ…っ!!」
キルヒアイスが強引にラインハルトの中に自身を捻じ込むと
痛みのあまりにラインハルトが絶叫し、シーツは血に染まった。

ラインハルトの痛みが治まるのを待つこともなくキルヒアイスが中を掻き回し始める。

「い…痛…いっ、…うっうう、苦…し」
腰を抱え上げられ真上から身体を串刺しにされながらラインハルトは悲鳴を上げ続けた。

「貴方の流した血が…溢れて、零れて…いますよ…」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは表情を歪め顔を背けると
キルヒアイスが再び強引にそちらに顔を向けさせる。

「これは貴方の血だ…誰の血でもない」
そういってキルヒアイスはシーツに浮かぶ血を指先で拭い取り、
ラインハルトに見せつけるように血を舐めた。

ラインハルトがその様子を眺めているとキルヒアイスが唇を重ねてくる。

「ん…んうっ…う」
苦い口づけと痛みだけのセックス。

首を絞めつけられたままラインハルトは串刺しにされ
熱くなったラインハルトの根元は固く紐で縛りつけられていた。

「苦し…苦し…い、キルヒ…アイ、ス…」
ラインハルトは涙を流して苦しみながらその愉悦に浸り、腰を激しく振って痛みに悶える。
自分に罰を与え痛めつけ苦しめる事によってラインハルトは罪から解放される事を望んでいるのだ。

「そう…もっと、…あげますから、ね」
「…あっああ…あんっ!…して、もっと、キルヒアイス!!」
キルヒアイスの爪先がラインハルトの勃起した先端をグリグリと刺激すると
ラインハルトは首を左右に激しく振って全身を身悶えさせる。

「なに…っ!?や…痛い!!…駄目えええっ」
ラインハルトの先端にキルヒアイスが細い管のようなものを突き刺したのだ。
そしてラインハルトの根元を縛り付けていた紐をキルヒアイスが外す。

「で、出る…っ、や、やあああ…っ!」
がたがたと震え出すラインハルトにキルヒアイスが先端に突き刺した管を
グチュグチュといじってやると腰を震わせてラインハルトはイッてしまった。

「あ…?はあ…はっ」
先端に突き刺された管からポタポタと粘液が零れ落ちてくる。

息が整わないまま口を大きく開けて、ピクピクと痙攣したようになっている
ラインハルトの頬をキルヒアイスが手の甲で愛おしそうに撫で上げた。

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「もうお分かりでしょう…?痛みや苦しみでは貴方の心に傷を負わせる事は出来ない」

痛みだけで絶頂に達したラインハルトにキルヒアイスがそう告げると
ラインハルトの目に正気の色が帯びてくる。

「キルヒ、アイス…」
「貴方は苦しみや痛みの中にあっても…歓びを得る事が出来る」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは目を瞠らせた。

「…貴方は決して傷つかない、大丈夫…大丈夫、なんですよ…貴方は」
「キルヒアイス…っ」
ラインハルトがキルヒアイスに両手を伸ばしてキルヒアイスの身体を抱き寄せると、
キルヒアイスがラインハルトを宥めるように角度を変えながら
触れるだけの口づけを何度も繰り返す。

「貴方は何者にも汚せない…汚されない」
睦言のようにそう言ってキルヒアイスは擦り過ぎて赤くなったラインハルトの両手を軽く握り唇を寄せた。

「私が綺麗に洗って差し上げます…だから、もうこれ以上
ご自分で身体を傷つけるのはやめて下さいね」

ラインハルトが自分の両手を見るともうそこは赤い血で染まってはいなかった。
洗面台であれ程洗っても消えなかった血の染みが消えている。

「手…もう血に染まってない」
「そう…それはよかった」
ラインハルトはようやく平静を取り戻し安堵の溜息を漏らす。

キルヒアイスはそんなラインハルトの様子を見守りながらラインハルトの頬に唇を寄せた。
そしてそのままラインハルトの拘束を解いてキルヒアイスがラインハルトを抱き上げる。

ラインハルトをシャワールームに連れて行くと湯船にお湯を溜めながら
キルヒアイスはラインハルトを背後から抱いて湯船に腰を下ろした。

そうして溜まっていく湯を手で掬いながらキルヒアイスがラインハルトの身体を洗い流す。

「…オマエだけがオレを裁ける、オレを救える」
「そうです…貴方だけが私を裁ける、私を救える」
ラインハルトの呟きを肯定で返しながらキルヒアイスは
ラインハルトの身体をまさぐると、ラインハルトが身を震わせてそれに答える。

「…んう、は…キルヒアイス、オレには…オマエが、いる」
「ええ…私には貴方がいる。恐れるものなどなにもない…そうでしょう?」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは笑みを浮かべてキルヒアイスの愛撫にその身を委ねた。

「そうだ、オレたちは何者にも負けない…、あ…ああっあ、キルヒアイス…っ!」

ラインハルトが背を向けたまま、顔をキルヒアイスに向けると
キルヒアイスがラインハルトの唇を強く吸い上げる。

ラインハルトの胸元を飾る尖る突起をキルヒアイスが指先で強く捩じ上げると、
ラインハルトはビクビクと身体を震わせて白濁の粘液を撒き散らせて射精してしまう。

ラインハルトの素直な身体への褒美のようにキルヒアイスが胸元の突起と
ラインハルトの勃起した先端を指先で優しく撫で上げた。

「は…っはあ…あん」
「さあ…もっと出して。貴方のいやらしい液を全て私に吐き出しておしまいなさい」
キルヒアイスの甘く囁く言葉にラインハルトは蕩けるような顔を浮かべてそれに答える。

二人は互いにだけ浅ましくて欲望にまみれたその姿を曝け出せる。
その存在全てを受け入れる事に歓びを感じ、相手を愛おしく感じる事が出来るのだ。

互いの存在があれば世界中の何者からの許しも二人は必要としない。

「ん…んんっ、キルヒアイス…欲し」
「ええ…いくらでも、あげますよ」
貪欲なラインハルトの身体に答えるようにキルヒアイスはラインハルトの奥へ指を伸ばす。

血に塗れたその場所は痛みが先に来るはずなのに、
ラインハルトはその痛みにキルヒアイスをより強く感じている。

「…ああ、私の指先にこんなに貴方の内壁が絡みついて…指先が熱くて溶けてしまいそうだ」

「あ、あん…んうっイイ…して、早く!」
ラインハルトの懇願にキルヒアイスは指先をラインハルトの奥から引き抜くと
下から突き上げるようにしてラインハルトの奥をキルヒアイス自身の熱くなったもので抉った。

「はあ…あっんううう…う」
ラインハルトの嬌声とラインハルトの中から漏れるグチュグチュと濡れた音が
シャワールームに広がり二人の耳を刺激する。

「フフ…こんなに、美味しそうに銜え込んで…そんなに美味しい?」
「ん…美味、し…このまま、グチュグチュ、に…食べた…い」
そしてキルヒアイスの大腿をクッションにするようにラインハルトの身体が
何度も跳ね上がり上下運動を繰り返し始めた。

「あ…ん、は、あっ…や、ああん!」
ドクドクと内壁に吐き出されるキルヒアイスの白濁の液を、
ラインハルトが全身を身悶えさせながら絞りあげる。

キルヒアイスはラインハルトが望むままその身をラインハルトに与え続けた。

ラインハルトが身動き一つ出来なくなるまで相手をすると、
キルヒアイスはラインハルトを風呂から抱え上げてベッドへと連れて行く。

「お眠りください…ラインハルト様。後は私がなんとかします。
貴方が思い煩う事は全て私が片付けますから」

悪い夢を見たのだと、キルヒアイスは目を伏せたラインハルトの瞼に
唇を寄せながらラインハルトに暗示をかけるようにその言葉を繰り返す。

そうしてラインハルトはキルヒアイスの声を聴きながら
ここ数日得られなかった穏やかな眠りについたのだった。

キルヒアイスはラインハルトが寝静まったのを確認すると身体を起こし、
脱ぎ捨てた軍服を身に着けてラインハルトの部屋を後にする。

司令室に着くとキルヒアイスは自分の名で艦隊を指揮する将官全員を旗艦ブリュンヒルトへ召集させた。

「…皆様、本日はお忙しいところ召集をおかけして申し訳ありません」
キルヒアイスのその言葉から今回の召集の理由へと話題が移る。

「…今回皆様をお呼びしたのは、軍内で噂になっているヴェスターラントの虐殺の件についてです」
キルヒアイスの言葉に将官たちが顔を見合わせざわざわと騒ぎだす。

「皆様にははっきりと申し上げましょう…私が調査したところ
今回の一件、元帥閣下はどうやら熱核攻撃後にその事実を知ったようです」

「探査艇は間に合っていたのに知らなかったなど…っ」
「そんな言い訳で皆を説得なさるおつもりか、キルヒアイス提督!」
キルヒアイスの言葉に将官たちは納得がいかず、詳細な説明を求めた。

「私が言っているのはそのような次元の話ではなく、元帥閣下への報告を
故意に歪ませた人間がいたという事です…」

200万の人間を生贄にして門閥貴族を滅ぼす大義名分を得るために…

「…オーベルシュタイン、か」
キルヒアイスの言葉にロイエンタールが嫌悪の表情を浮かべながらそう言葉を発すると、
皆が困惑の表情を浮かべ顔を見合わせる。

「まさか…、そんな。なんと恐ろしい…」
「悪魔か…あの男は…」
皆が驚愕で顔を蒼褪める中、キルヒアイスがフェルナーを会議室へ呼ぶと、、
フェルナーの後ろからは身柄を拘束されたオーベルシュタインが続いて会議室へ入ってきた。

「…一体、何の権限があって私にこんな真似を…元帥閣下を今すぐここへ呼んで貰おう!」
オーベルシュタインが会議室へ入るとその中央にいたのはラインハルトではなくキルヒアイスだった。

「キルヒアイス提督…っ」
キルヒアイスがオーベルシュタインの目の前に立ち塞がると
躊躇う事なくキルヒアイスがオーベルシュタインの頬を目がけて拳を打ち放つ。

オーベルシュタインを拘束していた兵は慌てて身を離したが、
オーベルシュタインはまともにくらってしまい地面に倒れてしまった。

皆が唖然としてその様子を見守っている。

「こざかしい…この私を相手に元帥閣下の威を借るおつもりか」
これまでかつて聞いた事のない殺気に漲るキルヒアイスの声である。
普段ラインハルトの傍で穏やかに話しているキルヒアイスからは想像もつかない姿だ。

そういってキルヒアイスは地面に倒れ伏すオーベルシュタインの胸倉を掴んで、
オーベルシュタインを立ち上がらせる。

「貴方はご自分の罪状をすでにご承知の筈。貴方の身体を五体バラバラにして
ヴェスターラントの民衆に投げ与えても私は一向に構わないのですがね…」
「ぐ…う、うう」

キルヒアイスがそう言って、オーベルシュタインの身体を持ち上げながら首を締め上げた。

「…よりにもよって元帥閣下にその罪をなすりつけようとするとは…
貴方は恥というものを知らないのか」

オーベルシュタインの足元が地面を離れ、身体がピクピクと痙攣を始めると、
皆と一緒に呆気に取られて見つめていたミッターマイヤーが止めに入った。

「ま、待て…キルヒアイス!気持ちは分かるが…そのままでは死んでしまうぞ…っ!」

ミッターマイヤーの言葉にキルヒアイスがオーベルシュタインの首から手を離すと
オーベルシュタインの身体が地面へと崩れ落ち片膝をつく形となる。

「…貴方を元帥閣下に引き合わせたのは私の誤りでした。
私の命令に従うか、それとも処刑台へ赴くか、どちらかを選びなさい」

ゴホゴホと絞められた首を抑えながらオーベルシュタインが言葉を返す。

「処刑台…?一体、何を言って…卿に何の、権利があって…そのような」
「…権利、ですって?笑わせないで下さい。
ローエングラム陣営の人事権は設営当初から私に全て一任されているのです。
貴方の生殺与奪権も当然私が握っている…」

キルヒアイスの言葉にオーベルシュタインの腰がガクリと地面に落ちた。

「フェルナー准将…オーベルシュタインの身柄を拘禁して下さい」
「は…っ」

オーベルシュタインはもう一言も言葉を発しなかった。

どちらを選ぼうと自分の生殺与奪権を握るキルヒアイスにしか選ぶ権利がない。
フェルナーに伴われオーベルシュタインは拘束されたまま会議室を出たのだった。

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「…今回の一件はオーベルシュタインの独断専行を許してしまった私にあります。
このような事態が起きる前に私の立場をはっきりとさせておくべきでした。…申し訳ありません」

「別に卿だけの責任ではない…我々も事の真相を聞くまでは噂に揺さぶられていた。
不甲斐ない事だ…我々の元帥閣下がそのようなお方ではない事は分かっていた筈なのに…」

一致団結をしなければならない大切なこの時に噂ひとつで揺らいでしまうとは…
そういって皆が自己を戒めるようにキルヒアイスに頭を下げた。

「今回私が事の真相を皆様にお話ししたのもまさにその点なのです…
元帥閣下への忠誠心に一点の曇りも抱いて貰う訳にはいかなかった。
元帥閣下は貴方がたの忠誠と信頼を裏切るお方では決してありません」

キルヒアイスの言葉に皆が頷きを持って答えると、キルヒアイスは皆に引き続き話を提案してくる。

「ここで皆様にご了承願いたいのは…この件はいずれはっきりと結着をつけさせて頂きますが、
現時点に於いては引き続き箝口令を布くという事です」
「…どういう事だ、キルヒアイス」

ミッターマイヤーが皆を代表して尋ねるとキルヒアイスは話しを続けた。

「中枢部がこの有様では下はさらに混乱をきたすでしょう…
そのような事態は敵につけ入る隙を与えかねません…それに」

オーベルシュタインを処刑したところで200万の人間が生き返る訳でもない。

「キルヒアイス…オマエ」
「だが、キルヒアイス…オーベルシュタインはどうするつもりなのだ?
罪を全く問わないという訳にもいくまい…事は大量虐殺だぞ」

ロイエンタールの言葉にキルヒアイスは言葉を返す。

「…現時点で処刑を敢行すればこの事態を明るみにする事になりますので、
とりあえず彼は職務に対する越権行為を理由に拘留します。
その後は執行猶予…という形を取る事になるでしょう、ですが…
今後このような事態が起きないよう私が責任を持って対処に当たらせて頂きます」

目の前に門閥貴族という敵がいる状態で団結を瓦解させてしまう事は、戦いを前に敗北を意味する。
このような噂は今回に限らずとも敵の情報操作によってまたいくらでも出てくる事だろう。

「しかし…今後のためにもこのような噂では、我々の元帥閣下への忠誠心に
一点の曇りを与える事は出来ないのだと、貴方がたが模範となって皆に示して頂かなくてはなりません…」

来たるべきローエングラム王朝のために…

「……っ!!」
皆が一斉に目を瞠らせてキルヒアイスに視線を向ける。
ローエングラム王朝の名を公言したのはこれが初めての事だからだ。

「お…おお…っ」
皆が身体の奥から湧き上がる歓喜に身を震わせる。

「…我々は門閥貴族の圧政を終わらせ、万民のための新たなる時代の解放者になるのです。
くだらない戯言に足元を掬われている場合ではありません」

これまで目前の敵に目を取られ、明確な方向性を持たなかった皆が
キルヒアイスの言葉によってようやく覚醒した。

「キルヒアイス提督…っ」
「そうだ、その通りだ…!我々の忠誠心は今こそ試されているのだ!!」

今ここにローエングラム陣営はラインハルトを中心に完全なまとまりを見せる。
皆が顔を見合わせ、決意を固めるとキルヒアイスに向き直った。

「…各艦隊は我々が責任を持って必ずやまとめ上げてみせる!
元帥閣下に於かれては心おきなく目の前の戦いに専念して頂きたい」

「この一件については…我々にも今後の良き教訓になるだろう。
我等一同、この先いたらぬ戯言に対しては確固たる意志で立ち向かい
戦果を持って元帥閣下に対する忠誠心をこれまで以上に示していく所存だ」

新たなる新時代を我等の手で…!

そういってここにいる誰もが意識を高揚させて戦いへの意欲を充実させていく。
やがて興奮が冷めやらぬ会議室での話し合いが一通りまとまりを見せた所で解散となった。

キルヒアイスはそのままラインハルトの部屋へは戻らずに
オーベルシュタインを拘留している部屋へと向かう。

キルヒアイスが部屋の入口で人払いをして部屋へ入ると
オーベルシュタインはベッドに腰を下ろしていた。

「早く処分を言い渡してはどうだ…もうここに私の居場所はない」

打倒ゴールデンバウム王朝を成し遂げられないまま命を失うのかと思うと
これまで捨て去ってきた人間的な感情が蘇ってくるオーベルシュタインである。

「無念だ…あの方を王位に据える事で、私の中にあった鬱屈は全て昇華されたものを」

「それは違います…貴方が元帥閣下にしようとしていた事は打倒ゴールデンバウム王朝を
成し遂げようとするものではない…貴方は第2のゴールデンバウム王朝を復活させようとしたのだ…っ!
私が貴方を許せないのはその一点にある」

キルヒアイスの言葉にオーベルシュタインは俯いた顔を上げてキルヒアイスを見やる。

「門閥貴族を滅ぼす大義名分によって犠牲にした200万の人間の命と、
貴方が憎む劣悪遺伝子排除法によって殺されていった人間の命にどんな違いがあるというのですか…!」

貴方は元帥閣下を第2のルドルフに仕立てあげようとしたのだ。

「……っ!!」
「…貴方の他にも打倒ゴールデンバウム王朝の夢を元帥閣下に託された方がいました。
その方こそゴールデンバウム王朝の最大の犠牲者でもあった。
その方はご自分の力の及ぶ限り力を尽くし元帥閣下を支え続けた、その方こそ」

今は亡き、皇帝フリードリヒ4世陛下その人です。

「同じ過ちを二度も繰り返す訳にはいかない…我々は時代を戻すのではなく
革命を起こそうとしているのですよ、なぜ聡明な貴方がそれに気が付かないのですか」

「…あの方に、あの方にそれが出来ると卿は言うのか。
本当にそんな時代を作れると…本気で、卿はそう言うのか…!?」

「勿論です…その為に我々は歴史の勝者になるための戦い方をしなくてはならない、
それこそが貴方が本当に望む打倒ゴールデンバウム王朝を成し遂げる唯一の道ではありませんか…
どうして貴方は安易で未来のない行き止まりの道を選ぼうとするのです!」
「……っ!!」

それは完全なる正論だった。

確かに自分は最初から諦めていた。理想など妄想だと…歴史は繰り返される罪の連鎖だと…
だがそれでは確かにキルヒアイスの言うとおり、目的の達成に何の意味もないのだ。

打倒どころか復活…これでは自分の否定した道を肯定した上に手助けをする事になる。

キルヒアイスの言葉にようやく自分の中での食い違いに折り合いをつけた
オーベルシュタインは心の中で結論を導き出す。

「…ならば、まだ私にはするべき仕事が残っているようだ」
キルヒアイスの言葉を全て受け止めたオーベルシュタインが静かな眼差しをキルヒアイスへと向ける。

「私は歴史の生き証人だ…ゴールデンバウム王朝の負の遺産を道連れにこの命を捧げる事が出来る」
絶好のタイミングでそれが実行出来れば、その時こそ世界は完全に新しい時代を迎える事になるだろう。

この命一つでそれが叶うのならばそれも悪くはない、本望だ。
オーベルシュタインはそう言うとキルヒアイスに手を差し伸べた。

「…誰よりもゴールデンバウム王朝を憎む貴方なら
私の共犯者になれるのでは、と…私はずっとそう思っていましたよ」

キルヒアイスはオーベルシュタインに差し出された手を握り返しながら言葉を返す。
思えばこのローエングラム陣営にきて自分と互角に会話をしてきたのはキルヒアイスだけだった。

敵に回せばどれだけ手怖い男かオーベルシュタインはよく知っている。
だが目的のために手を組むならばこれほど強力な共犯者は他にいない。

「本当は…貴方がナンバー2不要論以外に私を閣下から引き離そうとした
理由も分かっていたのです…貴方は私たちの関係を知っていた」
「今はともかく…いずれ後継者問題が持ち上がりますからな」

キルヒアイスはオーベルシュタインの言葉に思わず苦笑してしまう。

「私は…あの方が望むならどんな事でも叶える、ただその為だけの存在なのですよ…
あの方がいずれ結婚し子供を作られてもそれは変わらない…あの方の子供ならば…私は愛せる」

キルヒアイスの言葉にオーベルシュタインは目を大きく瞠らせた。

なんという一方的な犠牲だろう。
この男は自ら望んでその立場を受け入れるというのだ。

『キルヒアイスは私自身も同様だ…』
キルヒアイスの言葉に愕然となったオーベルシュタインが
以前ラインハルトが口にしていた言葉を思い出す。

「…私はあの方以外のものにこの世界でなにも価値を見い出せない、
おそらくそれはこの先ずっと変わらないでしょう」

私は人として決定的ななにかが欠けた盲目の人間。
その気になれば全人類の犠牲すらあの方の為なら厭わない。

「キルヒアイス提督…」
キルヒアイスの悟りきった目は半分どこか諦めのようなものをオーベルシュタインに感じさせる。
それはおそらくキルヒアイスがこの心境に至るまでの葛藤の現れだろう。

「…話は以上です。とりあえずもうしばらくはここに居て下さい…閣下は私が説得します」
そういってキルヒアイスはオーベルシュタインの部屋を出た。

「革命、そして戦い方…いかにして新時代を築き、皇帝を光の道へと成さしめん…」

あの男、キルヒアイスは英雄を作り上げようとしている…

そしてその英雄の影に暗躍して旧時代の闇を取り除き
英雄に光の道を歩ませる事により新時代を切り開こうとしているのだ。

だがそれは歴史上まったく無かった事ではない。
人類の歴史は英雄どころか神さえも作り出しているではないか。

繰り返される歴史の中に永遠なる理想国家は存在せずとも
永遠ならざる理想国家は確かに存在したのだ。

その場に残されたオーベルシュタインは今後の構想を練り上げながら、
キルヒアイスがこの部屋で告げた言葉を何度も心の中で反芻することになる。

数日後、オーベルシュタインは拘留を解かれ
再びローエングラム陣営のラインハルト付きの参謀に復職した。

司令部の人間たちに嫌悪の目で迎えられたオーベルシュタインだが、
自分の収まるべき立場をすでに悟ったオーベルシュタインは何の痛みも感じない。

キルヒアイスにこの件に関する全権を委ねたラインハルトもまた
この件については何も語ろうとはしなかった。

その後オーベルシュタインはキルヒアイスの計画に協力して
ガイエスブルグ要塞でキルヒアイスの死を偽装する共犯者になった。

キルヒアイスとオーベルシュタインがラインハルトを皇帝にするべく仕掛けた
全宇宙を股にかける壮大な計画はここから始まる事になる。
(※↑『天の果て 地の限り』にエピソード詳細有)

TEXT_赤金「薔薇の檻」-5
首都オーディンに戻り帝国宰相となったラインハルトの名の元で
キルヒアイスの国葬が壮大に執り行われた。

キルヒアイスは生前に遡り、軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官、
帝国軍最高司令官代理、帝国宰相顧問の称号まで贈られた。

葬儀の後、人気のない景色のよい丘の上に作られた墓所に
キルヒアイスの身体は永久保存されたまま埋められる事になる。

墓碑銘には”Mein Freund(我が友)”とだけ添えられてあった。

どんよりとした厚い雲に覆われた空からは雨が降り注ぎ、
皆が墓に納められるキルヒアイスを見守っていた。

キルヒアイスの墓前で膝を落とすアンネローゼの姿を見かけたラインハルトが傍によると
アンネローゼがこれまでに見たこともない目でラインハルトを見つめている。

「…貴方、何をしたの?」
わなわなと身体を震わせラインハルトにそういうと立ち上がって
ラインハルトの胸元に爪を立てて縋りつく。

「姉、上…?」
「私がなにも分からないとでも思っているの…ジークは、
この人はこんな死に方をする人なんかじゃない…、貴方が殺したのよ!」

ラインハルトが幼い頃から常に傍にいてラインハルトを守り続けたキルヒアイスである。
自分との約束を守るためにキルヒアイスはいつも力を尽くしてくれていた。

「何とか言ったらどうなの…ラインハルト!貴方はジークのご両親に何とお詫びするつもり…っ!?」
「……っ!!」

アンネローゼの言葉に顔を真っ青にして全身を凍りつかせるラインハルトである。

言葉を失ったラインハルトを庇うようにミッターマイヤーとロイエンタールが
アンネローゼとラインハルトに割って入った。

「お二方…どうかお待ちを。まだ葬儀の途中です…故人を想うのならばここは抑えて」
ミッターマイヤーの言葉にアンネローゼは我に返り、両手で顔を覆うように俯いて涙を流す。

「…私たち、どうすればいいの?ジーク以外、私たちにはもう誰もいないのよ…」

アンネローゼがそう呟きながら地面に崩れ落ちると、
ラインハルトが片膝を地面についてアンネローゼの肩を強く引き寄せる。

丁度そこに葬儀を離れて見守っていたキルヒアイスの両親が姿を現した。

「…アンネローゼさん、どうか泣かないでやって下さい。あの子が悲しみますわ」
「おば、様…っ」

そういってアンネローゼに声をかけてきたのはキルヒアイスの母親である。
ラインハルトがキルヒアイスの父親の方へ顔を向けると父親がラインハルトに深く一礼する。

「…やめてください、私はキルヒアイスを死に追いやった張本人です。
貴方がたに恨まれて当然の人間だ…!貴方がたからキルヒアイスを強引に引き離し、
そして命まで奪ってしまった…」

ラインハルトが立ち上がり堪らず声を荒げると
キルヒアイスの父親が穏やかな表情を浮かべ、首を左右に振ってそれを否定する。

「それは違います…この子と生前の別れを済ませたのはもうずっと昔の事なのです」
幼年学校に入った最初の年、初めての休みに帰郷した息子はそれを最後に家に戻らなくなった。

「自分の命よりも大切な方がいるのだと…そう申しておりました。
だからもう、自分のことは死んだ者と思って欲しいと」
「…っそん、な!」

卒業後、毎月定期的に口座に振り込まれているお金を見ては息子の無事を確かめていた。
額が上がると昇進したのだろうと昇進祝いをし、毎年アンネローゼにキルヒアイスの名で
蘭の花を贈る度に息子の事を思い出す。そんな毎日だった。

「ある日…息子が一度だけ還ってきたのです。それは貴方のおかげでした…宰相閣下」
キルヒアイスの父親の言葉にラインハルトが昔、キルヒアイスを強引に家に帰らせた事を思い出す。

「たった一晩でしたが、想像以上に立派になった息子と過ごす事が出来ました…有難うございます」

キルヒアイスの母親が父親の傍に寄り添い一緒になって一礼すると、
ラインハルトは溜まらず首を左右に振ってそれを否定する。

「礼を言われるような事ではありません…私には帰る家がなかった。
だから、キルヒアイスや貴方がたの心情をそれまで察してなどやれなかった…っ!」

そう言ってラインハルトはキルヒアイスの遺体に目を向ける。

「彼は私自身も同様でした…半身といってもいい。彼が死んだ時、
私は迷わずその場で死を選ぶ事が出来た…だが彼は私にそれを許してはくれなかった…っ!」

『宇宙を手に入れてください…ラインハルト様。
そしてアンネローゼ様に伝えてください…ジークは昔の誓いを守った、と』

「ジーク…貴方、は」
今初めて聞くキルヒアイスの遺言にアンネローゼは目を大きく瞠らせた。

キルヒアイスが死んだその日からラインハルトの髪を切る者がいなくなり、
放っておく内にラインハルトの髪は肩に届く長さになっていた。

ラインハルトは内ポケットからナイフを取り出すとばっさりとその髪を切り落とす。

「宰相閣下…っ!!」

近寄ろうとする回りの者を手で制し、ラインハルトはその髪を
永久保存されたキルヒアイスの遺体の上に投げ入れる。

「彼との約束を果たすまで…私は彼の元へ行く事が出来ません。
ですが、私は必ず約束を果たしてここへ戻ってきます…その時こそもう二度と彼を離さない。
今度は私との約束を彼に果たして貰う」

(『私は常に貴方とともにある…』、
キルヒアイスの言葉の真実をオレは必ず手に入れてみせる…)

ラインハルトはそういってキルヒアイスの両親に頭を下げると
キルヒアイスの墓所を振り返ることもなくその場を去って行った。

数年後、ガイエスブルグ要塞で死を偽装したキルヒアイスが戻ってくるその日まで
ラインハルトの髪が切られる事はなかった。
(※↑『天の果て 地の限り』にエピソード詳細有)

TEXT_赤金「薔薇の檻」-6
キルヒアイスが再びラインハルトの下へ戻り、
皇帝ラインハルトの居城『獅子の泉』に住む事になってしばらく経ったある日の事である。

その頃すでにキルヒアイスは大公位をアンネローゼに返還して
帝国3長官の地位を正式に代行者に委任後、
帝国軍の主席元帥の地位と帝国宰相顧問を兼任する毎日を送っていた。

そして久々の休日を得たキルヒアイスは気分転換に街に出てきたのだ。

私服姿で歩きながら皇帝の居城『獅子の泉』を出るまでに
キルヒアイスは何度警備の者に呼び止められた事だろう。

途中、ラインハルトの親衛隊長であるキスリングに呼び止められ
護衛をつける手配をされてしまったので何人かは近くに潜んでいると思われる。

キルヒアイスは街で買い物を済ませ、オープンカフェで
コーヒーを注文するとようやく一息つく事が出来た。

ラインハルト辺りにこの事が知れると
おそらく何故自分も連れていかないのかと拗ねられてしまった事だろう。

キルヒアイスがまわりの景色を楽しみながらコーヒーを味わっていると、
偶然にも見慣れた顔を見かけて相手に軽く会釈を返した。

相手がキルヒアイスの存在に気が付くと慌てて駆け寄ってくる。
どうやら彼も休日中で家族との買い物を楽しんでいたようだ。

(※↓『悪魔を憐れむ歌』後のエピソード)
「キキキ…キルヒアイス提督…っ!!このような場所で一体なにを!」

声を顰めながら言ったのは彼がこの異常事態を十分理解している証拠だろう。
護衛の者が近くにいるのかどうかを確かめるように彼は辺りを見渡した。

彼は内国安全保障局の局長であり諜報活動のプロフェッショナルだ。

「ククク…ッ、ラング局長ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。
見張りはキスリング隊長に強引につけられましたから…」
「左様でございますか…お忍びにしてはあまりに大胆で驚きました。
いくら閣下が射撃の名手で白兵戦のエキスパートでいらしても
閣下はこの国最高VIPのお一人でいらっしゃいますぞ」

キルヒアイスは手を挙げてウェイトレスを招くとラングの分のコーヒーを頼んだ。

「…ところで、家族で外出ですか?」
「ええ…まあ、娘の誕生日祝いのプレゼントを買いに街へ出て参りました」
そういって少し恥ずかしそうに話すラングにキルヒアイスは笑みを浮かべる。
少し離れた所からラングの家族がこちらの様子を伺っているようだ。

「そうですか…それはなによりです。早く戻らなくて大丈夫ですか?」
「いや…それが私、こういった大っぴらな場所で仕事関係の人間に会ったのが
初めての事でして…家族に上司だと閣下の事をご紹介したら挨拶をしてこいと
言われました…なんだか少しこそばゆい感じもするのですが、いいものですな…こういうのも」

ラングはかつてゴールデンバウム王朝時代に国家治安維持局の局長として
反社会国家主義者の摘発を行っており帝国では恐れられていた人物だ。

その後オーベルシュタインにローエングラム王朝の内国安全保障局の局長に任じられたが
ロイエンタールと諍いを起こし内乱罪に問われ拘留されてしまった。

その後、ラングはキルヒアイスに助けられて復権したのだ。

「家族とこのような時間を過ごせるようになったのも閣下のおかげです…」

かつてのラングに見られた憑き物は落ち、穏やかな顔をするラングに
安堵を浮かべるキルヒアイスである。

「貴方はもう…大丈夫ですね」
「はい…誰にも認められない汚れ仕事と罵られ、蔑まれていた私の中から生まれた歪んだ権勢欲は、
閣下の一言で解消されました。この国の頂点である陛下とそれに次ぐ閣下に仕事を認められている、
他の誰になにを言われてもそれに勝るものはなかった…
今では誰の前でも卑屈に背を丸めることなく胸を張って私は生きていけます」

こうして家族の前で仕事の上司を紹介出来る日が来ようとは夢にも思わなかった。
ラングはしみじみとそうキルヒアイスに告げる。

「私が貴方を認めた理由は…職歴だけではありません。決定的にしたのは貴方の家庭の存在でした。
この健全な家庭を守るために社会の裏で汚れ仕事を一手に担う貴方ならば、
健全な国家を守るためにもその手腕を振るわれるだろうと思ったのです…」

「閣下…」

「…恥じる事など貴方にはなにもない。誰にも出来ない仕事をして
貴方は人知れず家族を、そしてこの国を守っているのですから」
キルヒアイスの言葉を噛みしめながらラングは恐縮して溜まらず頭を下げる。

丁度その時だ。

「お父様…っ!」
そういってラングの家族が堪え切れずにキルヒアイスとラングの前にやってきた。

「初めまして…お父様がいつもお世話になってます!」
「お…おい、オマエ達。この方は…」
娘が物怖じせずにキルヒアイスに挨拶を交わすとキルヒアイスは笑って言葉を返す。

「初めまして、フロイライン…私の方こそ、いつもお父上にはお世話になっておりますよ」
キルヒアイスの爽やかな笑顔に顔を赤らめるラングの家族である。

「ご家族のお買い物のお邪魔をしたようで…申し訳ありません」

「そんなあ…っ!お父様の仕事の上司にこーんなカッコいい方が
いらっしゃるなんて感激ですわ、ねえ…お母様!」
「ええ…まったくですわ!この人ったら家にもご招待しないで…本当、しょうがないわねえ」

ラングが冷や汗を掻きながらその様子を見守っていた。
意外と自分の心臓はやわだったのだ、などと自覚するラングである。

「オ…オマエ達、頼むからその…無礼な物言いは」
ここでキルヒアイスの正体を晒してしまうと大騒ぎは避けられない。
ラングは家族を必至に留めるが日常的な家庭内でのラングの立場はどうやら平社員以下のようだ。

「…残念ながらもうタイムリミットのようです。
そろそろ私は失礼させて頂かないと…楽しい一時を有難うございました」

キルヒアイスが時計を見やるともう城を出て結構な時間が流れている。
そろそろ戻らない事にはラインハルトがまた騒ぎかねない。

キルヒアイスはラングの家族に見守られながらその場を後にした。
その夜ラングの屋敷ではキルヒアイスの素性が知れて大騒ぎになったらしい。

「…止まれ!」
キルヒアイスは皇帝の居城『獅子の泉』の入口で再び呼び止められた。

出掛けた時と入口の警備がまた入れ替わっているようである。
また出掛ける時のように何度もこうやって部屋を目指すのかと思うとうんざりするキルヒアイスだ。

「身分証明書の提示をお願いします…」
私服姿のキルヒアイスを不審気に見やる警備の者にキルヒアイスがカードを差し出すと、
警備の者が顔を真っ青にしてその場に立ち尽くす。

(あわわわ…キ、キルヒアイス主席元帥…って、まさかあの
帝国軍最高司令官と帝国宰相顧問を兼任しているという…!?)

銀河帝国皇帝ラインハルトに次ぐ軍と政治の最高権力の持ち主である。
皇帝の居住区に住んでいる彼ならば私服で『獅子の泉』を歩いていても決しておかしな話ではない。

私服姿に買い物袋を抱えているキルヒアイスの姿に唖然とする警備たちである。

「も、申し訳ありません…っ!失礼しました、どうぞお通りください」
「いえ…それより親衛隊の誰かをここに寄越して貰えませんか。
また部屋に戻るまでにこれと同じ事の繰り返しになりそうですから…」

皇帝陛下の親衛隊は皇帝陛下の住まいの警護を任されているため、
皇帝の居住区の前まではフリーパスで辿りつけるのだ。

居住区の近くまでいけば皆がキルヒアイスの顔を知っている。

「かしこまりました…っ、すぐに手配させて頂きます!」
キルヒアイスの言葉に警備の者が返事を返すと慌ててその手配に取り掛かる。

「閣下…っ!?」
警備のものが親衛隊に連絡をとった所やってきたのは親衛隊長のキスリングだった。

詳細を聞かされぬままキルヒアイスが親衛隊を呼んでいると聞いて
何事かと親衛隊長自らが慌ててやってきたようである。

「キスリング隊長…」
キルヒアイスはキスリングの慌て振りにガクリと肩を落とす。

(何て住みにくい住まいなのだ、ここは…いちいち大袈裟過ぎる)
ラインハルトがキルヒアイスを無理やり自分の隣の部屋に住まわせているため、
うっかりそのまま外出しようものならこんな状態になってしまう。

「このまま家出したい気分だ…」
ぼそりと呟くキルヒアイスの言葉にキスリングは
ラインハルトの反応を予想してギクリと内心冷や汗を流す。

「閣下…ご冗談を」
「警備が厳重なのは結構ですが…どうも庶民の私には肩が凝っていけません」
溜息混じりにキルヒアイスがそんな呟きを漏らしていると、
今度は皇帝の近侍であるエミールがキルヒアイスの姿を見つけ駆けつけてくる。

「閣下…!陛下が…また」
「…そうですか。いえ、何も言わなくとも大体の予想はつくのですが」
そういって慌てるエミールを、片手をあげて制するキルヒアイスだった。

TEXT_赤金「薔薇の檻」-7
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「キルヒアイス…っ!キスリングから聞いたぞ、何故オレも連れていかないのだ!」
ラインハルトの居住区に到着したばかりのキルヒアイスに発せられた
ラインハルトのいきなりの発言である。

キルヒアイスが一緒に部屋の前まで来ていたキスリングに目をやると、
申し訳なさ気にキスリングがキルヒアイスに頭を下げて部屋を後にした。

「何を言っているのですか…貴方は今日、仕事があったでしょうに」
「ああ…っ、こんな楽しい事を一人でやるなんて!ずるいぞ、キルヒアイス…
姉上に言いつけてやるからな」

ラインハルトが苛ただし気に愚痴を零していると
アンネローゼが料理皿を抱えて部屋へとやってくる。

「おかえりなさい…ジーク。丁度よかったわ、今料理を運ばせている所なの」
キルヒアイスが城に戻った事を聞いてどうやらアンネローゼは料理を温め直してきたようである。

「それは有難うございます…私もお手伝いしましょう」
「いいのよ…エミール達もいるのだし。貴方は帰ってきたばかりで疲れているでしょう、
そのまま座ってなさい…それより、食事をしながら今日の外出の話でも聞かせて頂戴な」

どうやらキルヒアイスの外出の一件がアンネローゼにも届いていたらしい。
後日この二人の外出につき合わされそうな予感にかられるキルヒアイスだった。

(キスリング隊長…頑張ってくださいね)
今のキルヒアイスは少々現実逃避が入っているのかもしれない。
まるで他人事のように皇帝陛下の親衛隊長を務めるキスリングに同情してしまっていた。

(…薔薇の檻、とは我ながらよく例えたものだ)
かつてキルヒアイスがゴールデンバウム王朝の皇帝の居城『新無憂宮』を
そう表現したのは囚人のようにがんじがらめの生活を送る皇帝フリードリヒ4世の姿を見たからだ。

(宮廷内とは…たとえ場所や主が違っていても、やはり窮屈なものなのだな)

ゴールデンバウム王朝時代とは時代背景も全く違い、銀河統一を成し遂げた帝国は
ローエングラム王朝皇帝ラインハルトの名の下に革新的な改革を続けて
万民のための公正な社会体制を布く事に成功している。

忌まわしい風習を持った旧宮廷のしきたりは最早影も形も残っていないが、
警備を徹底する以上この窮屈さはやむを得ないものなのだろう。

ラインハルトもこの窮屈さには辟易しているものの、アンネローゼとキルヒアイスがいない
孤独な生活を余儀なくされていた昔にくらべれば天国だとラインハルトは言う。

それはアンネローゼも同様である。

「まったく久々に休みを狙って、一人でなにをしているのかと思えば…」
小さな円卓を囲んで3人揃って食事をするようになったのは
アンネローゼが『獅子の泉』に移り住むようになってからの習慣である。

急を要する事でもなければ大体はこうして世間話をしながら3人で食事をして過ごすのだ。
一日の疲れが癒される一時である。

「まあ、ラインハルトったら…休みの日くらいジークに好きに過ごさせてあげなさい。
日頃から忙しい仕事をこなして大変なのだから」

「どうだか…こいつは最近、自分の仕事を減らしてばかりですからね。
姉上がそんなに甘やかしていたらその内、こいつは家出をするかもしれませんよ」
ラインハルトの言葉にキルヒアイスは上目使いにラインハルトを見やる。

「…ラインハルト様」
「この国最高VIPの分際で、私服姿で一人で街に出掛けようとするなんて…
オマエも人の事をとやかく言えないのではないか?」

キルヒアイスの事に関する事ならどんな報告も最優先に受けているラインハルトである。

以前のようにキルヒアイスがまたいなくなる事をあから様に警戒する事はなくなっていたが、
近頃のキルヒアイスの行動にラインハルトは不満を感じていた。

ラインハルトの与えた役職を次々と代理の者に委任したかと思えば、
アンネローゼを『獅子の泉』へと移り住まわせたり、ここ最近キルヒアイスは
やる事なすこと全てにおいてラインハルトを驚かせてばかりだからだ。

「少し外から眺めてみたい気分だったのです…『獅子の泉』を」
「それはさぞかし解放感を感じた事だろうな…」
拗ねる口調でそういったラインハルトに苦笑で答えるキルヒアイスである。

「もう、その辺にしておいておあげなさいな…貴方も心配していた癖に」
「…姉上だってこういいながら結構心配していたのだぞ。
オマエときたら何も言わずに一人、私服で外に出たりするから…」

ラインハルトの言葉にキルヒアイスがはっと我に返り、アンネローゼを見やると、
アンネローゼが返事に困ったように顔を傾げてしまった。

キルヒアイスはようやく自分の注意が欠けていた事に気づきアンネローゼに向き直る。

「申し訳ありません…アンネローゼ様。いささか軽率でした…
あらぬご心配をおかけた事、お許しください」

「…いいのよ、ジーク。貴方が無事戻ってきてよかったわ」

食事を終えるとアンネローゼは自分の居住区のある離れに戻り、
キルヒアイスとラインハルトはそのまま寝室へと向かった。

エミールがその日最後の挨拶と共に部屋を去るとラインハルトが続き間になっている
ドアを開けてキルヒアイスのベッドへ飛び込んだ。

「ラインハルト様…!?」
慌てて駆け寄るキルヒアイスの腕を取りラインハルトが強引にキルヒアイスをベッドへ引き倒す。

「ここから出たいか…?キルヒアイス」
顔をベッドにうつ伏せたままそういったラインハルトの言葉に目を瞠るキルヒアイスである。

「…駄目、だ」
「ラインハルト様…」
ベッドにうつ伏せになり、首を左右に振って何度もラインハルトがそう繰り返す。

「もうオレを置いてどこへも行くな…」
ラインハルトがそういって身体を起こし、
ベッドに仰向けになっているキルヒアイスの身体に覆い被さった。

「ここはオマエを閉じ込める牢獄だ…もうどこへも行かせない」
「ラインハルト様…」

ラインハルトがキルヒアイスの両頬に手を寄せて、笑みを浮かべる。

「オレはオマエとの約束を守って宇宙を手に入れた…
今度はオマエがオレとの約束を守る番だ、そうだろう?」

ラインハルトが顔を近づけ、キルヒアイスの唇を奪いとる。

「…ん、…んう、ふ」
ラインハルトがキルヒアイスと唇を重ねながら、
キルヒアイスの着ている服を脱がし始めた。

「お仕置きだ…今日は、オマエ何もするなよ」
ラインハルトが濡れた唇を拭うように上唇を舌で撫で上げると、
キルヒアイスは諦めたように両手をシーツへ落とした。

「ん…うっ、駄目で…す、もう離し…て」
普段のキルヒアイスはラインハルトに口の中で自身を含まれる事を好まない。
ラインハルトの口内を汚してしまうのが嫌だからだ。

ラインハルトはそれを知っていてキルヒアイスを嬲るように
濡れた音を立てながらキルヒアイスの熱くなったものを扱き始める。

ラインハルトはキルヒアイスを追い詰める手段として
好んでその行為を利用する事があるのだ。

「ククク…もう先が濡れている。いつまで我慢できるかな…キルヒアイス」
ラインハルトの舌先がキルヒアイスの先端をピチャピチャと音を立てながら撫であげると
キルヒアイスは眉を顰めて呻き声をあげる。

「やめ…っライン…ハルト、様」
「オレはここをこうされるのが好きだ…オマエも好きだよな?」
ラインハルトがキルヒアイスの根元を手のひらで握り込みながら、先端を吸い上げた。

「ん…っうう!」
「オレの口でイきたくないのだろう…?ならば」
そういってラインハルトが身体を起こし、キルヒアイスの腰を跨いだ。

「オレがいいというまで…出すなよ、キルヒアイス」
ラインハルトが迷わずキルヒアイスの勃起したものを体内へと招き入れると、
キルヒアイスはシーツを握り締めながら射精を堪えた。

「熱…いっ、溶けそう…だ」
「…オマエの方が…もっと熱い、ぞ」
ラインハルトがようやくキルヒアイスを体内へ全て受け入れると
身体を仰向けになっているキルヒアイスの上へラインハルトが倒れ込む。

「も…限界、キルヒアイス…早く」
そういってラインハルトがキルヒアイスを抱き寄せる。

「あ…待って、動かないで…ラインハルト様…っ!んっんう」
「ひ、い…あっや、ああ!?」
キルヒアイスがラインハルトの動きに堪えきれずに射精してしまうと、
キルヒアイスは自分の失態に思わず片手で顔を覆ってしまった。

「酷い…キルヒアイス、オレまだイってないのに」
「も、申し訳ありません…、大丈夫ですから、落ち着いて」
自分の事を棚にあげ恨めしそうに涙を浮かべてラインハルトがキルヒアイスにそういうと、
キルヒアイスがラインハルトを宥めるように背中を撫でる。

「あ…っ?」
「…ね、今あげますから、泣かないで」
ラインハルトの中でキルヒアイスが再び熱くしたもので
ラインハルトの身体を揺すってやるとラインハルトがキルヒアイスの身体を抱きしめる。

「…ん、大き…早く、…欲し」
キルヒアイスが腰を使って下からラインハルトの中を突き上げ始め、
ラインハルトが心地よさそうに嬌声を上げ始めた。

「…は、ん…あ、ああっ…イイ」
ラインハルトの勃ちあがったものからは快楽を示す雫が滴り、
キルヒアイスが指先でラインハルトの先端を拭うように撫でまわす。

「…あん、…ああっ!?…で、出る…、もう」
キルヒアイスの身体を抱きしめて身悶えるラインハルトが今にもイきそうになると、
キルヒアイスが先程の仕返しとばかりにラインハルトの根元を握り込む。

「や…いあ、やああっ!!…離…して!」
ラインハルトがまるで気が触れたように首を左右に振ってキルヒアイスに懇願すると
キルヒアイスが腰の速度を落として、ゆっくりとラインハルトの中を
掻きまわすように腰を動かし始める。

「…や、やだ…もっと動い、て」
「もっと…?どんな風に…こう?」
そういってキルヒアイスがラインハルトの弱い場所を掠めるように突き上げると
ラインハルトがキルヒアイスの腰に絡めさせた足でキルヒアイスの腰を締め付ける。

「あん…、や…そこ、もっと…やあっ、あああっ!?」
ラインハルトが背を反り返らせて痙攣を起こした。

キルヒアイスに自身の根元を抑えられながら、
体内にキルヒアイスの吐き出した熱を受け止めてラインハルトはイってしまったのだ。

「あ…?な、何…オレ、イッた?」
「空イキという奴です…射精しないで奥だけでイったようですね」
キルヒアイスが息を乱れさせながら唖然とするラインハルトの頬に口づけながらそういった。

「…どれだけ私が貴方を我慢させても貴方は一人でイってしまえるのだから…本当、敵わないな」
「ば、馬鹿…死ぬかと思った…ぞ。まだ目の前がチカチカ…する」

キルヒアイスが顔を真っ赤にしているラインハルトの瞼にそっと唇を寄せる。

「ご心配なさらずとも私はもうとっくの昔にこの薔薇の檻の住人ですよ…ラインハルト様」
「…キルヒ、アイス?」
首を傾げるラインハルトの頬に手を寄せて、キルヒアイスは笑みを浮かべる。

「貴方は私が愛した最初で最後の花…」
キルヒアイスの言葉にラインハルトがフリードリヒ4世の遺言の事を思い出す。

「確か…フリードリヒ4世も言っていた。『最後の花』…一体、なんの事だ?」
「…我が人生に咲き誇りし最大の花、皇帝フリードリヒ4世陛下にそう言わしめた
『最後の花』とは…ラインハルト・フォン・ローエングラム、貴方の事ですよ」

キルヒアイスの言葉にラインハルトが驚きに目を瞠る。

「オ…オレ…っ!?では、あの遺言。オレを頼むといって逝かれたのか、あの方は!」
「ええ…『新無憂宮』で囚人のような生活をしていたあの方にとって
貴方は新しい時代を切り開く希望の存在だった。
あの方は誰よりもゴールデンバウム王朝に絶望しておられたから…」

皇帝フリードリヒ4世が死後、自分が育てた花園を焼き払うように
遺言を残した理由が今のキルヒアイスにはよく分かる。

誰にも触れさせたくはなかったのだ…自分の愛した花園を。

「花園を離れて見て分かったのです…私は花によって生かされていたのだと」
「キルヒアイス…」

キルヒアイスがラインハルトを抱き寄せながら、触れるだけの口づけを何度も繰り返す。

「…私を離さないでください、どうか私をこのまま貴方の腕の中に閉じ込めていて」
「離さな、い…もう、どこにも…やら、な、…ん、ずっとこの、まま」

角度を変えながら繰り返す口づけが唾液に濡れ、二人の間に細い糸が引く。
舌でそれを絡めながら二人は深い口づけを交わした。

そのまま二人は飽くことなく互いを求め続けた。
薔薇の檻の住人たちはこの場所に囚われる事によって共にある事を望んだのだ。

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