製品開発における CPS の位置づけは,製品競争力に関わる部分に関与するものであり,商品主管とは違い,職務上は製品開発プロジェクトのリーダーというわけではない。「CPS, PCD, CVE などは,昔の商品主管と違って横に並んでいます。 CPS が立てたコンセプトに基づいて PCD がデザインし, CVE が設計をするというのは,仕事の流れがそう流れているからです。ただプロジェクトは一緒にやっていますから,毎週プラニングセンターに集まっていろいろとやっていますが。「常に議論体制になっているので,責任が明確になっているわけですから,他の人を説得しなければ動かないし, 逆に彼らからもいっぱいいろんなことを言ってこられるわけです。
例えば,『収益達成が難しそうだから,もっとお金がかからない企画にしてくれ』とか,『開発部門に頼んでいたけれど,実際に開発したら技術的に出来なくなった』など,のほほんとしていられなくて,常に周りとやっているという感じがします。」このように,製品コンセプトは製品の根幹に関わる部分なので,そこが中心となって展開されることになるが,あくまでそれらは並列になっており,上下関係もない。しかし,あくまでそれは役職上のことであって, CPS には従来商品主管であった人も多く,また,製品コンセプトは非常に重要なものであるため,実際に業務が行われる中では,リーダーに近い様子も受け取られるケースもあった「商品主管の場合には,そのプロジェクトの明確なリーダーです。今の体制になったときにそこは分業にしていますが,誰がプロジェクト・リーダーかというと,商品主管出身ですのでリーダーとしての意識が強いです。しかし,最終的な仕様設定や目標性能の判断は, PD が行うべきかもしれません。
現在, PD は副社長が管轄していますが,本来ゴーン社長直轄です。ゴーンが全て判断すべきですが,そういうわけにも行かないので, PD がゴーンの意志の下に決めるという体制なのです。ただ,そのプロジェクトにどのぐらい深く関わっているかというと,やはり CPS が一番近い立場にいて,それから CVE がその次です。」「今は,プログラム全体を進めるのは PD ということになっています。 CPS は商品に関する専門家だと言われています。他に,エンジニア,デザイナー,プロモーションの専門家がいて,それを横串で刺すのが PD という理解です。ただし,業務分掌と実際はどうかということですけれど,やはり自動車会社は商品ありきというところがあって,エンジニアにしてもデザイナーにしても,商品の専門家がどう考えているのかということが出発点ですので,私たちの言うことも相当注目してもらっています。」「PD というのは, 言ってみれば社長代行です。 CEO が 1 つ 1 つの詳細までは見切れないので,それを代行して見るという位置づけの人間です。ですから,プロダクト・マネジャーは,本来PD です。 ただ, 個人差が大きくて, 商品を取りまとめた経験が豊富な CPS がいる場合は, CPSが中心になることもあります。」「例えば新車発表をするときに,ゴーン社長が説明し,その後にこの商品の企画を CPS が説明する,デザインはこうだと PCD が説明し,技術的な部分は CVE が説明するという形になっています。 PD はその中に入ってなくて,裏方という感じです。実際に私が思っていることですが,昔の商品主管に近いプロジェクト・リーダーは, CPS だと考えていただいていいと思います。」これらの話を総合して考えてみれば,いわゆる「重量級プロダクト・マネジャー」といわれる人物は,この体制では誰が最も近いのかということについては,権限という点では PD になるのかもしれない。 しかし, 実際の業務においては, プロジェクトの運営という意味では, CPSが中心的になっているように受け取られる。確かに,例えば新車発表を取り上げる雑誌 などでは,CPS とCVE が全面に出て「ステージア」「スカイライン」 )の説明をしている。ただし,「プロジェクトの運営については,今の段階ではかなりばらつきがある」商品をとりまとめる仕事の経験が深い CPS の場合は,プロジェクト運営に長けているために,いわゆる「重量級プロダクト・マネジャー」に近い形になっているのではないだろうか。ちなみに, 「エンジニアには途中で諦めてしまう連中もいます。直接彼らの上司でもないし,言える立場ではないかもしれないけど,『いざ1対1なら負けないぞ』と思っているので,彼らを励ましたり,一緒に考えたりここが一番ポイントだと思ったら飛び込んでいって,一緒に栃木のテストコースまで走りに行こうとやったりしています。普段は CPS ですから『技術のことは分かりません』と言っていますけれど,『生半可のことでは手を打たせないぞ』『出来ないなんていう言葉を俺の前では口が裂けても言うなよ』というのはあります。僕は車輌全体をみることが多かったものですから,四輪駆動システムやエンジンなど,車の核となるところは,ほとんど自分で作ったことがあるので,ほとんどの話は言ってくれれば分かります。普段はそういう会話にならないですけれど,『どうしても達成できない』と言ってきたら,『全部の資料を俺の机に持ってこい,全部見るから』と言ってやると大体成立してしまいます。変なものは持って来られないとチームは思っていると思います。私も以前それをやっていて,元の部下も一杯いるわけですから。」
「重量級プロダクト・マネジャー」を念頭に置いて,商品主管が行っていた職務のうちで,「プロジェクト運営」が新体制では誰によってどのように行われてきたかを見てきた。組織における権限としては,「横並び」の CPS, CVE, PCD, PD ではあるが,役職のもつ性質や,個々人の持つ能力や経験から,必ずしも職権と実際とが完全にリンクしていないようである。商品主管としての経験が豊富な人間が CPS となっている場合,また, CPS が担当する仕事の性質上,実質上のプロジェクト・リーダーとなっているケースが多いように思われる。ただし,次の点は留意する必要があろう。「現在はほとんどの人が商品企画経験者のため仕組みが回っていますが,これから新しい人材が育ってくるとどうなるかキチンと考える必要があると思っています。例えば,私が直接付き合っている二つのプロジェクト関係者ともに, DPD(次席 PD) は元商品主管, CVE も元商品主管といった具合です。こちらも,お金の事情はわかっているので,優先度は常に意識して最も効果的に要求するようにしています。 CPS の発言からわかるように,現在はほとんどの CPS が元商品主管経験者であるため,このようにプロジェクトが運営されていると考えられる。
また, PD や CVE も元商品主管であったりするため,お互いの事情(特にお金) がわかるので効果的に運営されているが,これから旧体制の経験のない新しい人材が育ってくるとプロジェクト運営がどうなるか総括し,場合によっては見直す必要があるかもしれない。