6. 新体制での意志決定とトップ・マネジメントの関与

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ここまで見てきたように, PD があるセグメントの製品群についての収益管理, CPS が各担当する車種の製品競争力, CMM がその販売・プロモーションについて, CVE が製品の設計・開発について,責任を負っている(これらには多少オーバーラップしている場合もあるが) 。このほか, PCD という役職があり, これはデザインに関する責任を負っている。 デザインについては,いすゞ自動車からヘッドハンティングされたデザイン本部長が,全車種のデザインに関するとりまとめを行い,ゴーン社長に提案を行う。デザイン決定会議の議長はゴーン社長となっており,最終的なデザインに関する決定権限はゴーン社長になっている。これは, 2008年まで日産自動車は,デザインを車作りの中心におくとしているためである。だから, TV コマーシャルにおいても,デザイン本部長が全面に出て説明をしたりしている。そして,これらの役職は「横並び」であるということだが,意見が対立したりした場合に,どのような形でこれらをとりまとめ,決定されるのだろうか。この点については,以下のように述べられていた。

「PD, CPS, CVE の3人が相談して,『この辺りで行こうか』と決めます。 CPS が決める範囲はかなりありますが,結局お金の話をしないと決めきれません。そうなるとやはり PD が決めるということになりますが,そういうことはあまりありません。決めきれない場合には,経営レベルの会議にかけて,最終的にはゴーン社長が決めることになりますが,商品企画担当のペラタ副社長,もしくは技術・開発担当の大久保宣夫副社長の 2 人による合意によって決めま

す。例えば,どのデザインが良いかと CPS と PCD が論議しているときは,その範囲内は任せています。 PD が『私が今,出せるお金はこれだけだ』という。そうすると『そんな予算じゃ,箸にも棒にも掛からん』と言われる。どちらをやるにしてもお金が足りないすると,採用したいもののプライオリティーを付けさせて,『これをやるから,この部分はあきらめなさい』と

いうことを調整してあげます。基本的にはまず協議から入ります。合意すればそれでよし,合意しない場合があると,トップ・マネジメントであるペラタ副社長あるいはゴーン社長に判断を委ねます。

基本的には横並びの存在であるCPS, CVE, PCD,時には PD も加わって協議を行い,判断を行う。そこで判断がつかない場合は,トップ・マネジメントに諮り,そこが判断を下す形になっているようである。ただし, 実際上はそれ以前に決定してしまうことも多いようである。組織の建前上は,合意できない場合はどんどん上位者にあげるということになっています。合意できなくて EVP(Executive Vice President=副社長,この場合はペラタ副社長)に上げたのは,この 2 年間で 1 回だけありました。それは非常に稀です。どちらが正しいかということで,ずっと対立したままだったら,ゴーン社長がいつでも持ってこいと言っています。ただ,大体は途中でお互いの知恵が出てきます。また,ペラタ副社長は,非常にたくさんの報告を受けていますので,向こうがどんどん指示を出して来たりしますから, PD とか CVE と, CPS だけが対立したままということは,実際にはあり得ないです。ゴーン社長やペラタ副社長は,朝 7 時くらいから 11 時くらいまで働いていて,社員の中で一番働いています。出した電子メールも 7 時くらいには見てくれますので,指示がすごく速く飛んできます。

このように,実際上にはトップ・マネジメントに諮る前に,決着が付くケースが多いようである。どちらにしろ,製品開発に関わる決定に,トップ・マネジメントが大きく関与していることは事実のようである。

ゴーン社長やペラタ副社長は,重要な決定事項は必ず絡んできます。それも基準が明確で,ゴーン社長及びペラタ副社長の決定事項というのが,業務処理基準書になっています。例えばスタイル,収益の決定,材質の決定,ビジネスプラン,こういうものは全部細かいところまでゴーン社長が目を通して決めます。ここまで見てきたように,「横並び」の組織にすることで,議論をすることが前提とされており,それを補完する,あるいは直接関与するために,トップ・マネジメントが関わる形になっているようである。このような体制の目的とは一体何であろうか。もともと, CPS, CVE, PD の3人の組織というのは,ある意味ではやることが重複しています。しかし,それぞれに見方が違うので,そこにコンフリクトが当然ありますが,それを顕在化させるというのがこの組織の目的です。

その意味では大変うまく目的は果たせています。 役割を分けたわけですから,ある意味ではチームワークがすごく大事であり,ある意味では対立することが非常に大事なわけです。チームワークが良すぎると,以前と同じようになってしまう。チームワークで分かり合えて,同質化ではなくそれぞれの意見を持ちながら,あうんの呼吸で進めるようになってくる。 ただし, そこはやはり違う価値観の人間が入っていないと,商品としては絶対につまらないものしかできないです。同質化するということは,イエスマン

がたくさんいるということで,自分の考えが広がらないです。『ああいう考えがあったのか』とか,『こういう割り切りがあったのか』っていうのは,異質な人間や考え方があって,初めて気付くことです。

議論とか対立を生むためにこれが出来たと思っています。つまり,商品主管1人の中でうやむやにしていたり,個人の狭い判断基準で進めていたのが,公の論議になりますと,例えば商品力,技術,収益などを,人に説明しなくてはいけないので,自分の中で適当にというわけにはいかないわけです。そうすると従来以上に論理的思考が求められますし,情報もきちんと集めないといけないわけです。 違う立場から意見をぶつけあうと, 手法が違うわけですから,対立することはあります。ずっと対立したままだったら,社長や副社長に持っていって,そこで議論すればいい。妥協は絶対してはいけないと思っています。私が理路整然ときちっと情報などをつかんできて,やりたいことを説明できれば,皆は納得して,責任を持ってやってくれます。だから,私は自分の領域に専念出来ます。もちろんコンフリクトはあって,『もうこいつの顔なんか2度と見たくない』という日もありますけど, 『今度はどうやって説得してやろうか』ということで,さらに考えていくと,実際に自分の案が,お客様に対してより魅力的で,しかも安くできる案になっていたりします。」商品主管が1人で全てを取り仕切っていた時は,商品主管の能力に製品競争力が大きく依存しており,担当する商品主管の能力などによって,製品競争力にバラツキが出てくることも考えられよう。こうした問題は,自動車企業による多品種化政策によって,それほど顕在化していなかったと考えられる。しかし,バブル崩壊後の市場低迷下においては,自動車の製品開発費用は数百億円にものぼることから,費用負担は非常に大きいものとなっている。また,市場の成熟化に伴って,販売台数の大幅な増加が見込めない中,顧客の要望に応えうるような製品を確実に作り上げていくことが必要であろう。そのためには,従来の商品主管の能力に大きく依存する体制から,「会社全体のパワー」を効果的に活用し,製品競争力を高める必要がある。そのための一つの試みとして,権限の分散化とトップマネジメントによる関与とサポートによって,製品競争力の向上が図られていると考えられる。こうした体制における問題点はないのだろうか。それについては,以下のような話が聞かれた。「当然ながら効率は悪いですよね。1つのものを決めるのに大変手間がかかる,時間がかかるということは当然出て来ます。

また, PD, CPS, CVE は,それぞれ権限が違うと同時に,責任を負う領域が違いますので,必ずしもベクトルが合わないことも出て来ます。そのときに,その3者の力関係で,結論が変わるのではないかというのがちょっと不安です。

同じことを決めるのに,昔に比べればはるかに時間はかかります。例えば,誰かが出張していたりすると決着つかないですから。それが自分自身の責任,給料につながるわけですから,他人に決められたら困るというのがあります。発売の間際になって,『俺は認めない』と言って,急に仕様変更になることもあったりします。だから電子メールで常に見ていたりとか,場合によっては飛んで帰ってきたりします。」従来のような「重量級プロダクト・マネジャー」と呼ばれるような人物による製品開発であれば,担当者の意見は聞きつつも,最終的な判断は自分1人で行うことが出来るため,意志決定は非常に簡潔になり,短い時間で判断を行うことが出来る。しかし,新体制であれば,上記のように担当者間でコンフリクトが起きた場合,解決に時間がかかることもある。こうしたケースでは,トップ・マネジメントによる関与とサポートによって,解決が図られるケースもあるが,そのことは,製品競争力がトップ・マネジメントの能力にも,大きく依存することになっているといえよう。ゴーン社長もペラタ副社長も,「会社がどうやって成り立つのか,どうやれば収益が上がるかというメカニズムを,非常に良く分かっている」 (戸井 CPS) とのことであり,また,自動車に関しても詳しく,大変な「車好き」 20) であるとのことでもある。ゴーン社長の経営再建の手腕については,よく知られているが,ゴーン社長よく知られているが,ゴーン社長及びペラタ副社長退任

後における製品開発については,さらに検討をしていく必要があろう。

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