日産自動車における新たな製品開発体制は,製品を6つのグループに分け,図2のようにそれぞれプログラム・ダイレクター(Program Director:PD)が配置されている。 PD は収益確保に責任をもち,商品企画,デザイン,開発,製造,購買,販売・マーケティングの6部門の動きを監視する。そして,チーフ・プロダクト・スペシャリスト(Chief Product Specialist:CPS)が商品企画,チーフ・ビークル・エンジニア(Chief Vehicle Engineer:CVE)は開発と原価,チーフ・マーケティング・マネジャー(Chief Marketing Manager:CMM)は販売・マーケティング,プロダクト・チーフ・デザイナー(Product Chief Designer:PCD)がデザインとなっている 10)。製品開発における様々な判断は, 合議によって決定されるという形になっている。
旧体制における商品主管は,新体制では CPS と呼ばれる職務に就いている場合が多い
CPS の具体的な職務内容と,商品主管のそれとの違い。今回の新しい製品開発体制の意図は,会社全体のパワーによって,もっと商品力を高く,しかも収益性も高く,技術的にも高いものを提供しようというものです。今までは商品主管が,商品力からコスト,収益性,日程管理まで全てをやっていた。 CPS では,日程管理や原価,収益を外して,商品力に特化したわけです。だから,商品力については,もっと深くやらなければいけない。お客様のニーズはどうなのか,それにこたえるべく何をつくり出したら,お客様がびっくりするかというようなことを,もっとお客様を理解しながら,商品力を上げていくというのをやらなければいけません。CPS は唯一日産の中で,お客様を代表して,お客様になりきって,お客様の要望を通すという位置付けにあります。 CPS 全員がゴーンから,『とにかくお客様の立場を貫け』と言われています。 『ここは出来ない』とか, 『これを付けるなら,これは諦めて貰わないと困る』と CVEが言ってくる。『でもおれ客だもんね,そんなの説明したって駄目だよ,納得しないよ』といったふうに,お客様の立場になりきることです。お客様のわがままを作り手はどれだけ先に読み込んで,お客様自身が気付かない段階でそれを満たした商品を出すことが,独創的な商品になるわけです。お客様のわがままは商品作りにとって大事なところで,そこを出来るだけ貫くのが CPS の役割だと思っています。商品主管との違いは,コストや収益,作り易さの概念だとかを入れずに, もっと純粋な感覚で,創造的なものを出すということではないかと思います。 」「CPS がやるべきことは,自分の作ろうとしている車が,マーケットに受け入れられるかどうかにだけタッチすればいい,この車で売れるのかどうかだけ考えれば良いわけです。商品主管の時よりも,もっと深くマーケットを分析して,深く掘り下げていかなくてはいけない状況になったと思います。」「経営の意図として狙ったことは,もともと商品主管が持っていた権限を分離して,カスタマー・オリエンテッドな部分を増やそうということで,お客様の勉強や,ニーズの勉強の部分を大幅に強化するということです。」「商品主管では,たまたま忙しくて手が回らないとか,お金のことを考えるから,お客様の言っていることをきちんと理解できなくて,うがった見方しかできないとか,そうした部分を切り離して, QFD(Quality Function Development=品質機能展開)を分解して要求品質展開表の部分を取り出したようなものです。
CPS の仕事の神髄とは,やはりお客様のニーズをつかむということと,その点においては,競合他社には確実に勝っているということです。